ポイントが企業にもたらす効果と役割とは? セブン&アイグループのポイント施策の現況と展望
セブン&アイグループの電子マネーサービスとして広く知られている「nanaco」。「nanacoポイント」は、これに連動して付与されるポイントサービスです。
昨年11月にAndroidアプリをフルリニューアルするなど、nanacoは利便性を高めてきました。現在はグループに属するセブン-イレブン、イトーヨーカドー、ヨークベニマル、ヨークマートのほか、外部のグループ加盟店を含めて125万店以上で使用できるようになっています。nanacoとnanacoポイントは、いまや日本で有数の知名度を誇る電子マネーサービスとポイントサービスだと言えるでしょう。
今回、株式会社セブン・カードサービスの執行役員である宮地正敏営業推進部長に、nanacoポイントの現況と展望についてお伺いしました。(2024年1月29日に取材を実施)。
<この記事のポイント>
ポイント1 「nanaco」「nanacoポイント」は日本有数の電子マネー&ポイントサービス
- ポイント2 「nanacoポイント」は環境事業にも展開
- ポイント3 他ポイントからの交換のしやすさで、新たなポイント利用の機会を
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nanacoポイントがグループにもたらしたのは「囲い込み効果」と「送客効果」
nanacoポイントがスタートしたのは2007年4月の「nanaco」のサービス開始と同時です。nanacoポイントがグループにもたらした大きなものは「囲い込み効果」と「送客効果」でした。
「現在、nanacoポイント全体で付与されているポイントの半分以上がセブン-イレブンで利用されていることがわかっています。そういう意味で、グループでの囲い込み効果とセブン-イレブンへの送客効果が非常に高いものがあります」
nanacoポイントがあるから、「またセブン-イレブンで買い物をしよう」と考えるお客様が増加していることはデータで実証されているそうです。また、外部環境の変化がnanacoポイントの価値に大きく関わっていました。
【今回、お話を伺った株式会社セブン・カードサービスの宮地正敏営業推進部長】
「かつてポイントは物を買ったときについてくる“おまけ”という側面が大きかったのですが、昨今の物価の上昇によってお客様がポイントに貨幣に近い価値を感じるようになりました。ポイントによる値引き還元の価値が高くなったことで、ポイントの価値自体がまったく変わってきたわけです。nanacoポイントの利用でセブン-イレブンの売上が上がってきたことも、このことと深く関係しています」
nanacoを利用できる店舗が増えていくことで、お客様にとってnanacoポイントはより貯めやすく、使いやすいポイントサービスになっていきました。利用店舗の拡大は、確固たる理念にもとづいて行われています。
「なによりお客様の生活に根付いていくべきだと考えています。現在はお客様のニーズが大きく変化してきました。少し前に、消費は「モノ」から「コト」に変化しているといわれていましたが、現在はそれが「コト」から「体験・経験」に変化しています。
たとえば、エンターテインメントでも「コト」に加えて体験価値を重視するようになってきました。今後もお客様に寄り添いながら、お客様の変化に対応できるような展開をしていきたいと考えています」
近年は、飲食店や家電量販店、ドラッグストアなどだけではなく、ラウンドワンやスパリゾートハワイアンズなどのアミューズメント施設とも連携し、nanacoを使うことでnanacoポイントが貯まるようになりました。これもお客様の体験消費を重視した結果といえるでしょう。
nanacoポイントを使った環境配慮への取り組み
nanacoポイントは、加盟店で買い物をするだけでなく、お客様の「行動」によってポイントを発行する方法がいくつも用意されています。なかでも力を入れているのが、環境に配慮した取り組みです。
たとえば、ペットボトルリサイクルによるnanacoポイントの付与を行っています。セブン-イレブンは2015年から、ペットボトル5本投入につき1nanacoポイントが付与されるペットボトル回収機を店頭に設置してきました。現在、セブン-イレブンを中心に全国で約1,200の店舗に設置されています。
「特に今は小学生の環境リテラシーが非常に高くなっていて、親御さんと一緒にフィルムを剥がしたペットボトルを近隣の店舗に持ってきていただいています。親子で環境問題をご理解いただきながらペットボトルを投入して、nanacoポイントをもらっていらっしゃいますね。セブン-イレブンやイトーヨーカドーの店頭にペットボトル回収機を設置したことで、お客様の行動変化の一助になったともいえると思います」
もう一つの例が、食品ロス削減のための「エシカルプロジェクト」です。セブン-イレブンでは、エシカルプロジェクトのシールが貼られた消費期限の近い商品をnanacoで購入すると、店頭価格(税抜)に対して5%分のnanacoポイントが付与されます(いくつかの例外があります)。
「“エシカル消費(社会や環境に配慮した消費行動)”という言葉が知られるようになりましたが、環境意識の高いお客様がエシカルプロジェクトのシールのついている商品を選んで購入されているようです。自身の消費がフードロスの解消につながり、同時にnanacoポイントも貯まることになります」
エシカルプロジェクトが始まったのは2020年5月のこと。当時、世の中のSDGsへの関心が高まっていく中で、フードロスの観点から、当グループを含めた小売業界、飲食業界全体の施策について疑問視する世論が生まれていました。
「例えば、恵方巻の大量廃棄の問題について、小売業の中で特に食品をメインに扱っている業者は、強い批判を受けました。それらの問題に対し、当グループはフードロス削減のための仕組みづくりの一環として、添加物に頼らない食品の長鮮度化技術開発を進めています。一方、店頭で始めたのがnanacoポイントを使ったエシカルプロジェクトです。ペットボトルリサイクルもそうですが、nanacoポイントを付与することで、お客様の食品ロス削減へのご理解とご参加を促すという目的もあります」
節電することでポイントが付与される取り組みもあります。「節電ポイント」という各電力会社が国から補助を受けた事業で、節電を達成した利用者に対して電力会社が発行するポイントがインセンティブとして付与されるというものです。電力会社のポイントをnanacoポイントに交換することで、節電で貯めたポイントを普段の生活の中で利用することができます。
「環境負荷を低減することは、非常に重要なテーマであり、企業としての社会的な責任だと考えています。お客様も、普段の生活の中で環境を意識することが増えているなか、今後も環境分野での各企業とのポイント提携を進めていきたいと考えています」
nanacoポイントで行う社会貢献
それ以外にも、朝日新聞デジタルの購読や、サカイ引越センターの利用、サミットエナジーの電気料金プランの申し込み、沖縄海邦銀行との取引などでも、nanacoポイントを貯めることができるようになっています。今後はセブン銀行と連携した新しいサービスも予定されています。
また、nanacoポイントを貯めやすくするだけではなく、利用しやすくすることにも重きを置いています。しかも、従来のようにポイントを商品割引として使うだけではなく、新たな利用方法の提案を始めました。
「今後、お客様がどこにポイントを使う価値を見出すのかについて、より多様化が進んでいくと考えています。nanacoポイントを利用できる間口をどんどん拡張していくことで、お客様のニーズに対応していきたいと思っています。たとえば、nanacoポイントを募金であったり、環境の向上に役立てることであったり、SDGsを含めた社会貢献にも使えるようにしようと考えています」
直近では能登半島地震への支援をnanacoポイントで募ったところ、20日間で250万円近くの募金が集まりました。
「募金の結果を見ると、我々が準備したポイントの使われ方にお客様が反応してくださっているのを実感しました。お客様はさまざまなことに関心を持って行動されていることを感じています。単純に貨幣としての価値だけではなく、いろいろな形での貯め方、使われ方を準備しておくべきだと考えています」
nanacoポイントの「核」にあるのは、他ポイントからの交換のしやすさ
nanacoポイントは、お客様のニーズの変化に対応しながら、nanacoのマネーに交換して利用できる店舗の数を増やしたり、ポイントを利用できる手段の幅を広げたりしてきました。その「核」にあるのは、ほかのポイントからの交換しやすさです。
「たとえば、東京メトロさんのメトロポイントクラブ(メトポ)は、nancoポイントに交換することができます。メトポと交換可能な流通系のポイントはnanacoポイントだけです。このように、nanacoポイントに集約し、nanacoのマネーに交換していただければ、全国2万1,000店のセブン-イレブンをはじめとする125万店で利用したり、現在広げているさまざまな利用の手段を選んでいただいたりすることができます」
貯めはじめたものの、なかなか使う機会がなくてそのままになっているポイントは意外とあるものです。セブン・カードサービスは、nanacoポイントの交換のしやすさ、集約のしやすさを追求することで、新たなポイント利用の機会を創出しています。
「これまで使っていなかったポイントを使って、セブン-イレブンでコーヒーやおにぎりなど買っていただければ、私たちもありがたいですし、お客様にとっても利便性が高められたということになると考えています」
当初、nanacoポイントは「囲い込み」の効果を期待されていました。しかし、これからは次の段階に進む必要があります。それはnanacoポイントがオープンプラットフォームになるような考え方です。
「世の中にたくさんのポイントがありますが、どんどんnanacoポイントに集約し、nanacoのマネーに交換していただいて、提携しているいろいろなお店で使って いただければいいと考えています」
お客様の変化に合わせて、いち早く行動を変える
エンターテインメントを楽しみたいお客様もいれば、環境に配慮したいお客様もいます。物価高に備えて節約したいと考えているお客様もいるでしょう。お客様の嗜好や行動は、今後ますます多様化していくと考えられています。
「お客様は一定の場所にはとどまりません。世の中が変われば、お客様の嗜好も行動も変化します。私たちが『こうします』と言ってもお客様はついてきませんし、私たちはお客様の変化の先読みをすることもできません。私たちにできるのは、お客様の変化に合わせて、いち早く行動を変えることです。お客様が変わっていくのであれば、私たちもお客様と一緒に寄り添って変化していきたいと思います」
nanacoとnanacoポイントを利用できる提携先を増やしていくことも、環境に配慮した取り組みを行っていくことも、お客様の利便性を高めることに他なりません。提携先を増やして、ほかのポイントをnanacoポイントに集約できるようにするのは、その最たる施策といえるでしょう。
ますます多様化して予測がつきにくくなる社会の中で、お客様の変化を見つめ、お客様に寄り添い、nanacoとnanacoポイントを使って、お客様の利便性を高める提案をし続けていく。それがセブン・カードサービスの「使命」といってもいいのではないでしょうか。
【今回、お話を伺った株式会社セブン・カードサービスの宮地正敏営業推進部長】
まとめ
今回伺ったお話からもわかるように、使いやすく、貯めやすいポイントの条件として、交換のしやすさは今後、さらに必須になっていくと考えられます。nanacoポイントのような規模の大きなポイントはもちろん、自社独自のポイントサービスをもっているという場合も、共通ポイントへの交換は顧客満足度を上げるうえで重要な施策となってくるでしょう。